正しさが絶滅させる鳥
劇団た組の『ドードーが落下する』が、横浜・松本・札幌の3都市を渡っての全公演を終了させた。神奈川芸術劇場での千秋楽を目にしたのは、もう3週間も前の話。平原テツ演じる、統合失調症持ちの芸人・夏目が周囲に気を使い続け苦悩する作品だ。どんなに周囲が手を差し伸べようと、夏目は苦悩し続ける。お互いがお互いを思いながらも、分かり合えない悲劇。なんて綺麗にまとめることは当然できない物語だ。
芸人の夏目は、頻繁に「間違える」という言葉を発する。自身が抱えることにプラスして、場の空気という「周囲の正解」を求めるあまり気を遣い、心身ともに犠牲にしていきながら疲弊し、死を選ぼうとする。ドードーは、もう40年近く目撃されていない絶滅したと言われる鳥の名だ。大きさは1メートル近くあり大柄で、飛べず、動きはゆっくりで、警戒心が薄い。アボリジニの言葉で「平たい鼻」という意味を持つウォンバットのネーミングも驚いたが、ドードーの意味はポルトガル語で「のろま」。大柄でトロく、警戒心のないやつ。見る人が見れば、夏目もそうであろう。
夏目は、薬を飲まないと「心の声」が聞こえてしまい、その声に従うと周囲からは奇行に見える。友人たちと楽しく過ごすには、心の声を無視するか、声自体を消さなければならない。そこで生まれるのは、周囲の声しか聞こえない環境だ。心の声を聞いても「間違え」、聞こえなかったところで自身に「正解」もない。空気として存在するであろう正解を追い求め、ひたすら消耗し続ける。そんな夏目が鉄板で持っているギャグは、上半身裸になりマジックで縦横の太い線を何本も描き、T.M.Revolutionの「HOT LIMIT」を再現すること。