青に止まれ。迂回と中断の話。

花井優太の雑記、何かしらの告知などがテキストで届きます。#1
Yuta Hanai 2022.08.23
誰でも

自身が編集している季刊誌『tattva』7月号では、いい打ち合わせや会議や話し合いをテーマにした特集を組んだ。話し合いは基本として共通了解を生むために存在し、ときには委ねあうし、ときには言いたくないことを言う。すぐに結論を急がずに、迂回することで生まれるアイデアや、話がまさかの方向に転んだことで思わぬ気づきに恵まれる。巻頭では哲学者の西研先生が「尋ね合い」という言葉を使い、人同士の承認について触れる。

<空気を恐れながら生きていると、人は自分の主張を口に出すことをためらうようになります。そうやって自由に意見が言えなくなることで、他人の話に耳を傾けるだけの余裕も失われます。自分の想いを受け止めてくれる人がいないと、他人の想いを受け止める気持ちになんてなれないからです。こうして世の中は不寛容になっていきます。

それを変えるには話し合いの作法を身に付けることーー私の言葉では「尋ね合い」を対話によって積み重ねていくことが重要だと考えています>

自分以外の気持ちはどこまで聞いてもわからない。どんなに分かり合っている間柄でも、全てを分かり合えることはない。しかし、信頼があるとちょっと突っ込んだ質問ができたりするし、質問によって信頼が構築されたりすることもあるだろう。尋ね合うことで、相手を知ることで、自分が思っていることも言えるようになる。その工程によって寛容さは生まれる。なんとも手がかかるのでコスパが悪いと思う人も当然いると思うが、プロセスをコストとしてカットするとろくなことがない。なんて言うと、修行が好きなんですか? とか聞かれそうだが、必要なプロセスだと思っている。

だが、じゃあ僕の普段の仕事を振り返るとどうだろう。打ち合わせは長引かないほど良いと思っている節が少なからずあり、何も進まないような長い打ち合わせは苦手だ。一旦解散して、個々人で考えてきて再集合した方が良いと思っている。場が硬直していると、脳も硬直するし、それこそ空気が気になって発言できないことも生まれる。一度全てをリセットし、みんなができるだけ話しやすいコンディションにすることが大切だと思う。これは結構うまくいく。中断が生む良さってやつが、きっとある。

自分ひとりであってもそう。先日僕はとあるアーティストへ提供する用の歌詞を依頼された。本を読んでも映像を見ても音楽を聞いてもどうもしっくりくるフレーズが出てこないので、思い切って外に出て布施琳太郎が渋谷パルコでやっている個展『新しい死体』を観に行った。ハンドアウトの情報も頼りに、僕と鑑賞物が関係性で結ばれていく。なんとなくイメージが湧いてくる。ああ、これだったんだ、なんて一丁前に思う。良い表現が思い浮かんで、軽やかな気持ちで先方のプロデューサーとの打ち合わせに向かうことができた。一発オーケーで即飲みにいく、なんてことは叶わず、そこから3時間打ち合わせをしながら言葉を練っていったわけだが、ここでも先ほどの中断で得た恩恵は大活躍した。と、話がどんどんずれている気がする。

でももう少し書こう。何年か前にMITの物理学者であるウォルター・ルーウィン教授の著書『これが物理学だ!マサチューセッツ工科大学「感動」講義』で、僕はなぜ空が青いかを知った。太陽が放つ光の中で最も波長が短い色が青であり、強く散乱することで空や海を青く染めるのだという。晴れた日、太陽に向かって吐かれたタバコの煙は少し青い。みんなが空を吐いていると考えるととてもロマンチックだが、タバコが身体に悪いことは知っている。アメリカンスピリットも終売、ついに僕も非喫煙者になるときが来たのだろうか?

布施琳太郎の展示の床も青かった。設置された画面も青い。僕らは太陽を直視できないから、太陽が放つとてつもない光の余剰を青で感じているところがある。青空にも、真っ青な海にも、太陽ってつきものだし。だから「新しい死体」というタイトルなのに、生を感じた。ジョルジュ・バタイユが、人々はとてつもないエネルギーを放出して浪費しまくる太陽を渇望して直立するようになったと書いていたが、この床は、どこから何を受け取って青いのか、と考えた。元々彼が青をモチーフにすることが多いのはもちろん知った上で、そんな頭の体操をする。展示は今月末までやっているらしい、って、なんの話をしてたんだっけ?

話し合いの中でここまでの脱線は難しい。特に仕事においては、みんな時間が限られているし。誰もが熱心に話せる議題なんて存在しないことも、僕は知っている。ファシリテーションのうまさ、話のうまさ、アイデアの面白さ、打ち合わせのなかで求められるものは種々あるけど、中断のうまさはあまり聞かない。うまい中断の仕方、続いていくために断ち切る行為というやつにいまはとてつもなく興味がある。

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